デナリ国立公園からアラスカ鉄道でアンカレッジへ。空路でジュノー、ガスティバスと乗り継いでグレシャーベイ国立公園に入りました。2009年9月3日から14日まで滞在しました。暖流からの湿った空気が4000m級のフェアウェザー山脈にあたり大量の降水をもたらし、山々からは数多くの氷河が海へと流れ出しています。実際、滞在中のほとんどが雨でした。
 シーカヤックをしたかったのですが、9月に入るとオフシーズンらしく艇が借りられずに断念しました。そのかわり、素晴らしい森や海岸でトレッキングや野営を楽しめました。デナリから比べると暖かく感じるくらいの気温だったので。

ジュノーから
 アラスカの州都ジュノーからグレシャーベイ国立公園の町ガスティバスまで、なんとこの6人乗り小型機で移動です。助手席にも客が乗っている! しかも結構揺れて生きた心地しなかったです。

ただ窓から見える景色は素晴らしかったです。
 アラスカ南東部からカナダ東部の沿岸は大昔、氷河に覆われ、削られた土地が浸水した、幾千の入江と島々に囲まれた海です。

クルージング
シーカヤックを借りたかったのですが、店が閉まっていて断念しました。
代わりといってはなんですが、シーズン最後の観光船で湾内を巡り、氷河や動物を観察します。

トド
 知床にも住んでいる、シーライオン(トド)の群れが岩の上で休んでいます。世界的に減少しアメリカでは保護の対象になっています。

エトピリカ
 このかわいらしい鳥、知床で観てみたい鳥の一つ、エトピリカです。日本ではごく限られた地域でしか住んでいないようです。名前はアイヌ語の「かわいい鼻」に由来しているそうです。

ラッコ
 かわいいラッコは入り江や港などいろいろなところで観ることができました。カニや貝をひたすら食っていて、観ていて飽きません。かつて毛皮目的の乱獲で数が激減したそうです。

オルカ
これも知床に住んでいる海の王者、シャチです。この時は4,5頭ほどの群れだったようです。とても泳ぐのが速く、すぐにクルザーから遠ざかってしまいました。

氷河の海
 入江のなかは全くといっていいほど波がありません。氷河の崩れたかけらがたくさん海面に漂っています。アザラシが興味深げにこちらを覗いていました。


 吸い込まれるような氷河の色、荒々しく恐ろしい氷の形、息をのむほどの景観が広がっていました。
 200年前まではグレシャーベイの入り江はすべて氷河に覆われたいたといいます。
 ここの氷河は世界的にも例をみないようなスピードで後退し、今ある姿になりました。
 時折、末端部が崩壊し、海のなかへと轟音とともにくずれ落ちていきます。

氷河によってもたらされるミネラル分や海水の撹拌によりアラスカ南東部の入り江はプランクトンの大発生する豊穣の海となっています。この豊かさを求めて夏期、遥か南の海から旅してやってくるのがグレシャーベイの豊かさの象徴でもある巨大なザトウクジラです。クルージングの最後に遠くブロウ(潮)が上がり、と前鰭を海面から高々と上げ海面に叩きつける様子を見ることができました。

グレシャーベイでぜひとも観てみたかったものが、ザトウクジラのジャンプ(ブリーチングという行動)でした。ある朝、海岸沿いの森のなかでキャンプしていると、どこからか不気味な「ブォオーーーーン」という重低音が何度も繰り返し響いてきます。 恐る恐るテントから這い出し、森を抜け海を見てみると、遥か沖をザトウクジラが潮を吹きながら悠々と泳いでいます。森まで響く不気味な音の正体は、ザトウクジラ達の歌う声だったのです。
 それからはその声が聞こえるたびに海にザトウクジラを見に行くことを心がけました。そしてある日、あるザトウクジラが今まで聞いたことのないような大きな声で唸った直後大きくジャンプし、その巨体を翻して海面に叩きつけるのが観れました。しかも連続3回繰り返しで。船からでないと見れないと思っていたクジラやシャチですが、グレシャーベイでは海岸から観ることができました。

バートレットコーブ
 この入り江にキャンプ場があり、ここを中心に森や海岸を巡って歩いていました。
 グレシャーベイは干満の差が激しく、さっきまでたき火をしていた場所があっという間に海のなかです。
基本的に雨が降っていて、時折雲の隙間から除く太陽の光は本当にありがたいものです。雨が多いので虹もたくさん観ることができました。

フェアウェザー山脈
 珍しく晴れて氷河に覆われたフェアウェザー山脈が見えました。雨ばかりなのに晴天の山脈とは何とも皮肉です。
 手前の川にはサケが上ってきていました。

ポーキュパイン
 日本語だとヤマアラシになるのかな? いちおうお尻のトゲをいからして僕を警戒しています。 動きは緩慢で、のそのそ歩いていました。木登りも上手で木の皮を食べているようです。

森へ
 グレシャーベイの森はレインフォレストといわれます。大量の降水は地衣類やコケに覆われた寒帯の多雨林を作り出すのです。高木はほぼすべてトウヒでした。

うごめく森
 サルオガセの衣をまとったトウヒの高木。
 レインフォレストの中を巡っていると、なにか飲み込まれてしまいそうな不思議な感覚になります。

黒い池
 森のなかいたるところに突然黒い水の池が出現します。
 ブラックウォーターポンドと呼ばれ、かつて氷河が残していった巨大な氷の塊がその由来だとか・・・

氷河のわすれもの
 森のなかに突然現れる巨大な石。これも氷河の名残で、「迷子石」などと呼ばれ、氷河の上に乗ってここまで運ばれてきたといいます

 この切り株を見たときに思わず感動してしまったものです。ふつう森のなかで樹木が芽吹くと、最初は他の木々に日差しを遮られて成長が遅く、年輪の間隔が狭まるものなのですが・・・ この樹はどうでしょうか? この樹は最初から年輪の幅が広く、成長が速かったことがわかります。それはこの場所が200年前まで氷河の下にあり、今ある森の木々は、森林を作った最初の第一世代の樹であることを物語っています。

ハクトウワシのクラン
 かつてこの場所にはヨーロッパから白人が訪れる以前から暮らしていた先住民がいました。彼らは自分たちの祖先はクマやワシ、ワタリガラスやビーバーといった動物であったと考え、それぞれの動物の家系(クラン)に属していました。
 これはレプリカですが、自分たちのクランの目印をこのように住んでいる場所の木々に刻んでいたといいます。
 彼らの多くは戦争や病気によって消えて行ってしまいましたが、ハクトウワシは今でもこの場所で、人間の営みを見守っているようです。

カヌーの民族
 アラスカ南東部の先住民はカヌーの民族でもありました。彼らはかつてこのような船で移動し、狩猟し、文化を伝えていたようです。 一本の巨木を削りだしカヌーを作る製法は、北海道の先住民であるアイヌと共通しています。

夕暮れどき、バートレットコーブの海岸で焚き火をしていると、背後の茂みでがさがさ音がします。茂みをかき分けて進む大きなブラックベアーでした。ふと見上げるとトウヒの樹の上にはハクトウワシがとまっています。目の前の入り江ではラッコやトドが魚介を食べ、沖合ではザトウクジラが潮を噴き上げながら悠々と泳いでいきます。
 僕にとってそれはまるで夢のような世界でした。でも現実にアラスカにはこれだけの世界が残されているのです。
 ただそのとき、ふと思ったのです。
「あれ? なんかこれと同じようなとこ知ってるな?」
「あっ、知床だ・・・」
また知床に戻ろうと思うまでには、もう少し時間がかかったのですが、大切なのはこのアラスカという遠回りでした。・・・人生に遠回りなんてないのかも知れません。
一つ一つの経験や出会いが今の自分を作っています。これからもこのような掛替えのない遠回りを積み上げていきたいと思います。